20060401

文化産業と地域経済の関係

特定非営利法人の設立と運営に関わって

 特定非営利活動法人(以下、NPO法人という)京都西陣町家スタジオ(以下、町家スタジオという)は、新しい産業振興と担い手の支援と育成、来るべきネットワーク社会に向けたデジタルコミュニケーションの研究、地域文化の集積場ともいえる町家を活用した文化振興とまちなみ環境の保全をおこなうことを目的として、平成14年3月、産官学の連携によって設立された。

 西陣織に代表される京都の和装地場産業は、地域人口の流出、産業従事者の高齢化など「産業の空洞化」が進み、京都府の総生産が前年対比マイナスとなる中、府内産業の出荷額構成比においては、全産業の中で年々その規模を縮小する現状にある。それに伴い、その職住の場であったまちなみも、現代的な建築物やコインパーキングをはじめとする景観の価値観を無視した産業施設へと、地域の特色を失った画一的なものに変容している。

 行政機関にあっては、産業衰退による税収の低下、観光資源としての地域景観の喪失など、西陣地域の産業を取り巻く産業構造と環境変化への対策が課題となった。

 他方、高等教育機関においては、IT関連産業を牽引できる人材の育成が社会的要請となり、そのためには、OJT(On the Job Training)などの教育プログラム開発が、淘汰の時代に入った高等教育機関の特色づくりであると考えていた。

 民間から参画した企業は、京都という地域が持つ文化資源のデジタルコンテンツ化に着目しており、そのソースを利用した事業展開に関心を寄せ、その実制作を担う人材の育成を求めていた。

 産官学それぞれの思惑の一致を受けて胎動した町家スタジオでは、京都府商工部をはじめとした外郭団体など公的機関による支援、民間企業からの寄付行為、地域住民を中心とした会員組織による支援によってその財政基盤をつくり、補修とネットワーク環境の整備を施した町家建築において、京都文化をモチーフとしたブロードバンドコンテンツの制作、地域住民を対象としたIT教育講座の開催など、高等教育機関に関わる教員や学生を軸に展開している。

 ブロードバンドコンテンツの制作については、全国規模で展開するISP事業者に対して、「京都西陣町家文化逍遊」と題して、ウェブ上に3Dで再現された町家を仮想体験しながら、京都の特異な生活文化の諸相を探るコンテンツ提供をおこない、将来的にはパブリックドメインとしての位置付けを目指している。

 IT教育講座については、「WebデザイナーのためのXHTML再入門講座」や「京都西陣デジタルプロデューサー養成事業」の実施実績を持ち、地域に拠点を持つIT関連企業に従事する人々、情報発信に興味を持つ地域住民に対して、生涯教育的側面からのアプローチを展開している。

 こうした活動を通して、地域の持つ魅力をデジタルコンテンツの形態に集約し情報発信することにより、地域外の人々の文化的欲求に刺激を与えるとともに、観光の側面から消費行動にも多少の影響を与えているといえよう。また教育事業の展開は、狭義の文化産業としては学術および芸術文化産業としての立脚点を持ちつつ、教育産業、生涯学習としての文化関連・周辺産業としての拡がりも併せ持っていると考える。町家を教育施設として使用する実施規模から、即効効果はないが、地域に関わる人々の先端的な情報発信能力の開発は、新たな事業主体育成の火種となる可能性を感じている。

 しかし、こうしたポジティブな視点の裏には、運営上のさまざまな問題も抱えているのが現実である。公的支援は、あくまでその支援の目的が限定され、町家スタジオの日常的な運営を補うものとはならず、それを補完する目的で民間企業の営利事業に、対価を求めて実行していかざるをえないという、法人の性格上からの自己矛盾を抱えている。またそれは、運営スタッフの処遇とモチベーションの保持の難しさにもつながっていく。スタッフに対して、そのボランティア精神に頼るには、営利と非営利の狭間をさまよう事業運営の現実手段に、参画意識のかい離を生みかねない状況にあり、個々のスタッフから提供される資源の継続性を維持するためには、相応な対価が必要となっている。

 行政は、財政支援にかかる自由度の拡大を、公共性の視点からどのように明確にするか。企業は、文化支援としてのフィランソロフィーと実質的経済活動の均衡点の模索。教育機関においては、実利的技術教育に加えて、夢や理想を喚起し、文化的成長を促す人材育成プログラムが求められているといえよう。それは、産官学に共通して、文化の担い手、また享受者としての精神的求心力の確立を目指すことが重要であるとも換言できよう。そしてそれが、経済活動の側面からも、持続性、発展性を持つものとして、地域を拠点としつつ、他地域へ拡大的に影響を及ぼすことが重要である。その明快な解答を、わたし自身未だ見いだしてはいないが、その試行として町家スタジオで展開される活動を検証し続けることは、将来に有効なノウハウの蓄積につながることは確信している。

2003年05月31日 渡部隆志

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